亡くなれた方の借金をチャラにしたい!なら…


相続によって引き継ぐのは、プラスの財産だけではありません。亡くなられた方(被相続人)が借金をしていた場合、そのマイナスの財産までも引き継ぐことになってしまいます。そんな理不尽な!と思われるのももっともですが、逃れる方法があります。相続放棄です。
相続放棄とは、相続人を多額の債務の相続から解放するために設けられた制度。あえて借金を引き継ぐ必要はありません。

ただし、プラスの財産がある程度ある場合や、亡くなれた方が保証人となっている保証債務リスクのある方については、限定承認という制度も用意されています。詳しくは、こちらまで。

相続放棄をすると…

相続放棄によって、以下の効果が得られます。
・相続の効力を、確定的に消滅させる
・初めから相続人ではなかったことになる
また、限定承認とは違って、自分以外に相続人がいる場合でも単独で行える点で比較的気軽と言えるでしょう。

相続放棄をお勧めする事例

基本的に、多額の借金がある場合など、マイナスの財産がプラスの財産を上回ることが確実な場合は相続放棄をするべきです。以下の事例にてはまる場合は、ご検討ください。

事例1 生命保険金や死亡退職金がある

相続放棄をすると、故人の預貯金などを相続することはできませんが、生命保険金や死亡退職金は相続財産ではないため、受け取ることが可能です。
たとえば、相続財産が預貯金2000万円、借金が6000万円であれば、相続すると借金4000万円を背負うことになります。しかし、ここに生命保険金が3000万円給付されるのであれば、相続放棄をすることによって借金はなくなり、生命保険金を満額受け取ることができます。

事例2 故人が保証人になっていた場合

知人のために、故人が債務の保証人や連帯保証人になっていた場合、債務者本人が弁済してくれれば何も問題は起こりません。しかし、もし弁済ができなくなった場合は、借金を肩代わりするような事態が発生します。
特に個人間で保証人になったりしていた場合、その事実が判明しづらいことが考えられます。相続放棄をすれば保証債務を引き継ぐことはありませんので、こういったリスクを回避する意味合いでも有効です。

事例3 将来の相続税対策

身寄りは年老いた母親と妹のみという方が4000万円の財産を残して亡くなった場合、相続人は母親となります。この相続に関しては、基礎控除の範囲内なので相続税はかかりません。しかし、母親は4500万円相当の不動産を所有しており、数年後に亡くなった場合は合計8500万円の財産を妹が相続することになり、相続税がかかってきます。
この場合、母親が相続放棄すると相続人は妹のみとなります。そうすると、4000万円と4500万円の相続はそれぞれ別個の手続きとなるため、相続税を節約できます。

事例4 故人が訴えられていた場合など

相続によって受け継ぐのは、財産だけではありません。民事裁判の被告人となっていた場合は、その地位をも引き継ぐことになります。
もちろん、故人の権利や名誉を守るために裁判を続行する場合は相続するべきです。しかし、煩わしいことから解放されたい、裁判の内容など全く把握していない、というのであれば、相続放棄して離脱することができます。
他に、相続人間にあまり面識がなかったり、仲が良くないなど、財産の過多に関わらず面倒なことを避けたい場合には、相続放棄をすれば煩わしさから解放されます。

相続放棄のデメリット

1、撤回はできない
相続放棄をすると、原則として撤回は認められません。
仮に、後日になって多額の財産が存在していたとしても、それを承継することはできなくなってしまいます。3カ月の猶予期間の間に、しっかりと財産関係の調査をすることが必要と言えるでしょう。

2、新たな相続人に迷惑をかける
相続人全員が相続放棄をすると、それらの人々は最初から相続人ではなかったことになります。そうすると、本来であれば相続人とならないはずだった人が、新たな相続人となることになります。
たとえば、父親が亡くなって、相続人である妻と子供が相続放棄をした場合。父親の両親が存在するのであれば、こちらが新たな相続人ということになります。つまり、父親の両親に借金も押し付けることになってしまうのです。
家族関係の悪化を防ぐためにも、相続放棄をする際には次順位相続人に対して告知をし、場合によっては相続放棄を促すようにすることが望ましいでしょう。

相続放棄の前に確認すること

「亡くなった方が消費者金融から多額の借金をしていたので、相続を放棄したい」という場合、ちょっと注意が必要です。過払い金が発生していませんか?
テレビCMなどでもよく耳にする”過払い金”とは、債権者に払いすぎた利息のこと。亡くなった方が生前に消費者金融やカード会社から借入れをしていた場合、利息制限法の範囲を超える利率で契約を行っていた可能性があります。
そんな場合、その債務を相続した人が過払い金を請求することが可能です。仮に亡くなられた方が生前に完済していた場合でも、完済日から10年以内であれば、相続人からの請求が可能です。まずはご相談ください。

債権放棄の書面に注意

このように消費者金融から借入れをしている方が亡くなった場合には、相続人に対して債権放棄の書面が届く場合があります。
債権放棄という内容であれば、とりあえず故人の借金を払わなくて良くなるだけでデメリットはないはずと、思いがちですが… 消費者金融が債権放棄の書類を送ってくる場合、実は過払い金が発生していることが多いのでご注意ください。

相続放棄の流れ

  1. ①司法書士と相談・打ち合わせ

    まず、そもそも相続放棄が必要かどうか検討していきます。
    相続放棄の申述には期間制限(3カ月以内)が設けられているのですが、焦る必要はありません。しっかりとプラスとマイナスの財産を整理していきます。亡くなれてから1~2カ月ほどで、ほとんどの債権者からの催告書などは届いてくるはずです。そこから財産状況を整理して、相続放棄をするのか、限定承認を行うのか、また通常の相続手続き(単純承認)にするのか、決定していきます。
    この時点では、費用は一切かかりません。

  2. ②相続人・相続財産の調査

    戸籍収集などを行い誰が相続人となるのか、どのような財産が相続対象となるのかを調査していきます。財産関係が複雑な場合など、3カ月をオーバーしそうな場合には、必要に応じて期間伸長の申し立てを行います。

  3. ③相続放棄の申し立て

    調査の結果を踏まえて、家庭裁判所に対して相続放棄の申し立てを行います。

  4. ④相続放棄照会通知書への回答

    1~2週間ほど経つと、家庭裁判所から相続放棄に関して照会通知書が送られてきます。回答内容については当事務所でアドバイスいたしますので、ご連絡ください。

  5. ⑤相続放棄受理

    家庭裁判所から相続放棄申述受理通知がなされると、相続放棄の効力が生じます。相続放棄受理証明書を各債権者へ送付(FAX等)することで、取り立ては収まります。

相続放棄の注意事項

相続放棄や限定承認を検討されている場合、絶対に亡くなられた方の財産には手をつけないでください。
たとえば不動産を売却・賃貸したり、遺産分割協議を行ったりしてしまうと、もはや相続放棄は認められず、相続債務を承継しなければならなくなります。
ただし、公共料金の支払いや建物の修繕など、財産の保全・管理行為などについては財産の処分行為とはみなされません。

3カ月を過ぎた相続放棄

基本的に、相続放棄の申述は3ヵ月以内と定められています。
ただし、その起算時点は自己のために相続の開始があったことを知った時とされているため、単純に被相続人が亡くなれてから3ヵ月以内というわけではありません。また、自分には相続財産が一切ないと信じる相当な理由がある場合も、この期間制限からは外れます。3カ月を過ぎていても相続放棄は可能ですので、ぜひ一度ご相談ください。